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スーツ
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| バフティヤル・フドイナザーロフ監督 (2003年) |
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大好きな「ルナ・パパ」のフドイナザーロフ監督の新作を2003年秋の東京国際映画祭で鑑賞。魔法の世界のような魅力に満ちていた「ルナ・パパ」に比べると、ストレートにリアルな青春物語ではあるのだが、悲劇と喜劇が背中合わせになって高いテンションで突っ走るストーリーテリングは、やはりフドイナザーロフ監督ならではだった。 舞台は黒海沿岸の小さな町。学校を卒業後、仕事もせず毎日ブラブラと過ごす悪ガキ3人組、シティリ、ゲーカ、ニモイ。彼らは高級ブティックのショーウィンドウに飾られたブランド物のスーツに憧れ、危ない橋を渡って手に入れた大金でようやく一着のスーツをゲットする。かっこいいスーツを3人で着回して、それぞれ大人の領分へ颯爽と踏み込んで行こうとするのだが、そこには厳しい現実が待っていた…。 少年達にとって「スーツ」は大人の世界・大人の男の象徴。まず外側から大人っぽく着飾ってその気になるというのは、思春期を経験した者なら誰しも身に覚えがあることだろう。そして、それが単なる見せかけの背伸びに過ぎないという事実も・・・。私は今や年齢的には大人過ぎるほど大人になってしまったけれど、何を以って大人というのか、大人の定義って何なのか、そして自分がちゃんとした大人なのか、この年になってもよく分らなかったりする (げっ、活字にすると何かすごい切迫感…。先が無いのにそんなたわけたこと言ってて良いのか?)。ただ日々の経験を積み重ねてきた中で感じるのは、妥協とか諦めとかのマイナス(?)のエネルギーで乗り越えてきたことも、意外に多いということ。プラス思考でいても、絶対に自分の思い通りにはならないことも世の中にはあるのだ。この映画は、そういう甘くない、難しい大人の世界と向き合うことになった少年達の物語なのだが、悩み多き年増の私はむしろ、彼らの行き先である世界で、年を重ねてもなお現実の厳しさに苦しみながら何とか生きていこうとする、大人と名付られた人種の、大きな困難とささやかな希望のエピソードとして、至極感じ入ってしまったのであった。 ![]() この映画には少年達がそれぞれに遭遇する、3つの大人の愛の形が描かれている。そしてそれぞれの愛の傍らで少年達が経験する3つの別れ…。一流のスーツを身にまとっただけでは大人になれないという事実を、少年達は痛感する。しかし、じゃあ大人になるってどういうことなのかという答えを教えてくれるほど、映画の中の大人達はご立派ではないのだ。でも私はこのダメな大人の描き方が好きだった。そして、時には、ダメを断ち切る最良の方法が「別れ」であることを、理屈では語れないやるせない感情として描いてくれたところが、さらに心を衝いた。 <以下ネタバレあり> 3つの別れの中でも私が特に忘れられないのは、ゲーカと義理母アーシャの別れだ。妖艶な容姿が災いし父からも浮気を疑われるこの義理母と、ゲーカはずっと反りが合わなかったのだが、ある事件によって、彼女は自ら去っていくことを選ぶ。道義的には良くないことであっても、感情的には許せないことであっても、彼女なりの真実の愛情と道義があることを、この事件によってゲーカは初めて心から理解したのだ。そして同時に大人の世界の複雑さ、厳しさ、醜さ、悲しさも…。何も言わずに去って行く彼女と、たった一言に全ての想いを込めて見送るゲーカ。初めて理解し合えた瞬間が永遠の別れの時になってしまうという人生の皮肉。お互いに何も聞かず何も語らない姿が死ぬほど切ない。私が大好きな列車の旅立ちのシーンの中でも、これほどほろ苦くて優しいシーンは初めて。「恋愛小説」でヒロインを演じウラジーミルと共演していたインゲボルガ・ダプクナイテが、軽薄のレッテルの裏に隠された、実はとても芯の強い聡明な大人の女性を演じていて、最高に魅力的だった。 どのエピソードも描いている現実はかなり残酷なのだが、「ルナ・パパ」と同じく、あまりにもテンションが高いために悲劇が悲劇と感じられないままドラマは踊り突っ走る。映像的に圧巻だったのは、絶景を通り越した、信じられないような恐怖の断崖絶壁のシーン。いくら何でもこんなヤバイ場所で泣かなくたってええだろうに…1歩踏み外したらまっ逆さまに谷底に落ちてお陀仏じゃ〜ん、と寒気がしてしまったが、壮絶に切り立った岩場の映像が主人公達の心象風景と重なって、得も言われぬ激しい情感が胸にガーッと迫ってくるのだ。こうした極端さ激しさが強い印象を与え、パワフルでしかも不思議に情感溢れる映画になっているところが、フドイナザーロフ監督作品だけが放つ強力な魅力ではないだろうか。 刺激的な映像や登場人物の造型には今回も大いに魅惑されたけれど、観た後瞼に残るのは、柔らかな水平線に抱かれた美しい海の映像だった。ほろ苦い青春のノスタルジーと、その先に在る大人の世界、人生そのものへの深い愛情。ダメな大人達をもそっと肯定してくれる温かさ。そうなのだ、どんなに過激であっても、監督の映画で最後に心に残るのは、一抹の優しさなのである。嗚呼、どうしてこんなに素敵な映画が作れるのでしょう〜?やっぱり私はたまらなくフドイナザーロフ監督の映画が好き。好き好き好きっ♪ ★「スーツ」は2003年東京国際映画祭で審査員特別賞と優秀芸術貢献賞を受賞しました。監督、おめでとうございます! ★上映後のティーチインで、ロケ地はクリミア半島のセヴァストーポリ(ウクライナ)だと監督からお話がありました。本当に美しい港町でした。 ★ フランスの公式サイト |