ピロスマニ (V)
ゲオルギー・シェンゲラーヤ監督 (1969年) 
   
グルジアの国民的画家、ニコ・ピロスマニ(1862〜1918)の生涯を描いた作品。グルジアを舞台にした映画と言えば、鮮やかな民族色と目くるめく映像美が印象的なセルゲイ・パラジャーノフ監督作品がまず浮かぶけれど、この映画はまるでピロスマニその人が描いた絵のように、静謐で清廉な作品だった。

居酒屋の壁に掛ける絵や看板を描いては、その日暮らしの金を稼いで放浪の人生を送ったピロスマニ。一度はモスクワの画壇に注目されながらも、彼の絵は世の中から冷遇されてしまう。居場所を失くした画家が画材だけを手に、老いてヨレヨレになってぽつんと歩き続ける姿には胸が詰まったが、なぜか画面に悲壮感は感じられなかった。それは、度々挿入される絵が観る者に語りかけ、絵の世界にこそ画家の真実があると確信することができたからだと思う。

商売や結婚といった人並みの生活に落ち着くこともできず、絵の依頼でも不本意な注文は拒否してしまう。しかし、彼の夢は「木の家に住みたい」というささやかなもの、無欲で朴訥としたグルジアの農民の生活を描いた彼の絵そのものだ。自分の芸術に対してあまりにも純粋であるがゆえに、世の中と上手く折り合いをつけることができず、お酒を煽って憂さを晴らす姿は多くの不遇の芸術家達と重なるものだが、純粋な芸術家というのはおそらく、こういう不器用な生き方を余儀なくされるものなのだろう。

ピロスマニの絵はグルジアの自然と生活を描いたものが多いが、どれも不思議な静けさが支配しているのが独特の魅力だと思う。素朴な生活を描いた民族色豊かな作品も素晴らしいけれど、私が惹かれるのは静謐な動物画。 ↓は以前画集で見て強い印象を受けた「きりん」の絵。


映画でこの絵と再会した時、これは孤独なピロスマニ自身の自画像ではないかと私には感じられた。空と大地だけを背に、キャンパスいっぱいにすくっと一直線に立って、媚びない澄んだ視線で誇り高く、そして少し悲しげにじっとこちらを見据えるきりんの姿は、孤高の画家の姿そのままに見える。人間の世界に安住の地を見出せなかった彼は、私利私欲もなく、束縛されることもなく、在るがままに生きる野性の動物に身を置いて、キャンパスの向こう側の世界、俗世間とは別の次元から、世の中を、人々を、私を、じっと見つめているような気がする。彼の描いた動物画は、キャンパスの中にぽつんと一体が大きく配されているだけのものが多い。どれもシンプルだか静謐で力強い美しさに満ちている。野生の威厳に画家の精神の高さが表れているようで、私はどれもとても好きだ。

寒色を基調とした画面も映画のトーンを静謐に統一し、1つの映像詩の世界を作っていた。画家の生涯を伝える物語としてはひたすら淡々と綴られているが、その静かな語りと映像の内にこそ、ピロスマニの芸術を愛する同郷の監督の深い尊敬の念が込められていると感じた。そしてスクリーンいっぱいに広がるグルジアの美しい自然や素朴な農民の生活・風俗・伝統、それらを見ているだけで、画家の中に根ざしているグルジアという国の心が豊かに伝わってきて素晴らしかった。 運命の悲劇よりも、画家の清廉とした魂が胸に残る珠玉の作品。好きです!!!


ピロスマニの作品を見られるサイト 1
ピロスマニの作品を見られるサイト 2






         

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